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拡大する中国5G市場の最新動向

2022年01月05日

はじめに

中国が近年、第5世代移動通信移動通信システム「5G」の普及を積極的に推進していることはよく知られています。中国国内の5G対応基地局については、Huawei(華為技術)、ZTE(中興通訊)という中国通信機器の両巨頭だけで市場シェアの9割近くを独占。米調査会社Gartnerによると、5G対応のスマートフォンの世界出荷台数は2021年に5億4000万台近くに達し、このうち6割を中国市場が占める見込みとなっています。本稿では、世界に先駆けて発展する中国5G産業の振興政策と基地局建設状況、各地での商用化実例(ユースケース)、主な参入企業などについて、注目すべきポイントを簡潔にご紹介します。  

ポストコロナ時代にもたらされる巨大な経済効果

  5Gは既に商用化されている通信技術としては最も堅牢なもので、超高速大容量(eMBB)、多数同時接続(mMTC)、超高信頼低遅延(URLLC)の3点が最大のポイントになります。このうち最も実感しやすい通信速度については、最高で既存の4Gの約100倍に達します。身近な例を挙げると、2時間の映画が数秒でダウンロードできてしまう速さと言われています。
このため、新型コロナウイルスの流行をいち早く封じ込めた中国の社会では、5Gの普及拡大により、個人の生活スタイルの変革、自動車・医療・エンターテインメント産業などでの新サービスの創出がもたらされると期待されています。中国情報通信研究院(CAICT)による2017年時点の長期予測では、5Gによる主な経済波及効果は次の通りとなります。  
  • 2020年で総額1.68兆元(直接が0.48兆元、間接が1.2兆元、中国2020年GDPの約2%)
  • 2025年で総額9.6兆元(直接が3.3兆元、間接が6.3兆元、中国2020年GDPの約9%)
  • 2030年で総額16.9兆元(直接が6.3兆元、間接が10.6兆元、中国2020年GDPの約16%)
  • 2030年で経済的付加価値6.5兆元、雇用創出1950万人
  次に経済波及効果が及ぶ具体的な分野についてです。中国では2019年11月に通信キャリアによる5Gサービスがスタートしました。こうした商用化の初期段階では、通信キャリアによる基地局向けの建設投資によって通信機器・設備メーカーに経済効果が及びます。次に5Gのインフラが整備されることで端末機器メーカー、その後は5G通信網の拡大に応じて5Gを利用するさまざまな産業分野(コネクテッドカ―、スマート医療、スマートエンターテインメント、スマート電力、スマート製造、スマートホームなど)へと、広範な経済効果がもたらされます。  

産業振興策によって加速する基地局建設

  中国では、2013年に工業情報化部(MIIT)、国家開発改革委員会、科学技術部が共同で「IMT-20205G推進組」を立ち上げことで、5G技術の研究開発が始動しました。その後、2015年に発表された産業政策「中国製造2025」の10大分野の一つとして5Gが位置付けられ、2017年に政府活動報告に重要課題として盛り込まれたことで、国家戦略の中心に定着しました。2020年には、コロナ禍に対する景気刺激策として「新型インフラ」への投資が奨励されたことで、5Gの基地局建設に弾みが付きました。
5G免許を割り当てられた中国移動(China Mobile)、中国聯通(China Unicom)、中国電信(China Telecom)といった国有3大通信キャリアは2020年、5G関連のインフラ投資に総額2000億元規模を投資する計画を打ち出しました。中国の民間調査会社、前瞻産業研究院によると、5G基地局の建設は2020年から30年にかけて計500万~600万基に達する見込みで、ピークとなる2022年には110万基になると言います。世界の5G専用ネットワークの世界市場に占める中国のシェアは20%に及ぶと試算されており、ここから数年は中国が世界をリードするすう勢が確実とみられます。  

産官連携で加速する5G商用化

  中国の特徴として、3大キャリアと地方政府が密接に連携している点が挙げられます。各地方政府は2019年に入ると、5G関連設備の建設計画や関連産業の育成策を相次いで発表。2020年からは前述した「新型インフラ」の整備に向けて、北京市や天津市、上海市、浙江省、広東省などの重点省市で当初の計画を上回る急ピッチで5G網が構築されています。
5Gを利用する産業分野についても、渤海湾に面した天津市のスマート港、石炭産業で名高い山西省のスマート炭鉱、高価なマオタイ酒を特産品として誇る貴州省の観光業などで、地域の特色を反映した5Gの導入事例が知られています。また、2020年のコロナ流行によって、最近ではリモート医療の取り組みも活発化。例えば北京市では、中国電信や華為と提携し、ロボットの遠隔操作によって、腰椎骨折の患者に12本のネジを正確に挿入する手術の成功例(積水潭医院)などが伝えられています。  

基地局・端末でも中国勢が世界を席巻

  世界の基地局シェアは華為、エリクソン、ノキア、ZTE、サムスン電子の5社で全体の約95%を占めています。中国の調査会社、艾瑞市場諮詢(iResearch Consulting)によると、中国では華為とZTEだけで2020年に5G基地局シェアの87%を制覇。開発費や設備投資の大きさから、今後も5G基地局分野への新規参入は困難な状況です。
一方、スマートフォン市場では、華為、維沃移動通信(Vivo)、広東欧珀移動通信(Oppo)、小米科技(Xiaomi)などの中国メーカーが計8割以上のシェアを占めています(米調査会社IDC調べ)。こうした中、各社は5G対応スマホへの注力を鮮明化。それに加えて、中国移動などのキャリアが自社ブランド端末の投入を公表しており、業界ではさらなる競争激化が見込まれています。
中国の通信業界には、本稿でご紹介した通り、内外の巨大企業が数多く参入し、し烈なシェア争いを繰り広げています。また、5Gの活用方法において、中国は日本企業の参考になる先行事例に満ちており、今後も注目が必要な分野となっています。 SPEEDA China アナリストチーム(執筆・楊寧川) 監修・米岡哲志 sh-analyst@uzabase.com  

enhanced_encryption 本レポートは中国版SPEEDAトップページに載せられている「拡大する中国5G市場の最新動向」のレポートをまとめたものとなっています。

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