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「デジタル経済」で加速する中国製造業DX

2022年01月17日

はじめに

中国では今、デジタル化された財・サービス、情報、マネーなどがインターネットを介して流通する「デジタル経済」が急速に拡大しています。工業情報化省傘下のシンクタンクである中国信息通信研究院によると、デジタル経済が中国の国内総生産(GDP)に占める割合は2005年の14.2%から2020年の38.6%へと拡大。2020年のデジタル経済規模は39兆2000億元と前年比9.7%増の伸びを示し、新型コロナウイルスの影響でGDP伸び率が同3.0%に落ち込む中でも堅調でした。
 
 
デジタル経済という概念は、ウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念ですが、中国では2015年3月に李克強首相が「政府活動報告」の中で初めて「インターネットプラス」の行動計画を公表したことで、本格的に始動しました。李首相はここで、「モバイルインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoTなどと現代製造業との結合(電子商取引、工業インターネット、インターネット金融等)の発展を促進し、インターネット企業を国際市場の開拓・拡大へと導く」という方針を明らかにしました。注1
この方針は同年6月の国務院で「インターネットプラス行動指導意見」として正式承認され、今後新たな産業モデルを形成し得る11の重点分野として、①起業・イノベーション、②共同製造、③現代型農業、④スマートエネルギー、⑤金融包摂、⑥公共サービス、⑦高効率物流、⑧通信販売、⑨至便な交通、⑩グリーン・エコロジー、⑪人工知能(AI)が挙げられました。注2
また、ほぼ同時期の2015年5月に国務院が発表した「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」では、2025年までの重要業績評価指標(KPI)として「ブロードバンド普及率(2025年で82%)「デジタル化研究開発設計ツール普及率(同84%)」「重要工程デジタル制御化率(同64%)」といった数値目標が掲げられました。
中国政府はさらに2017年7月、AIに関する初の長期発展計画として「次世代AI発展計画」を発表しました。AIは、デジタル経済を支えるテクノロジーとして、IoT、ビッグデータ、ロボットと並ぶものであり、デジタル経済の推進に向けた中国政府の意気込みがうかがえます。
そして、2021年3月の全国人民代表大会(全人代)で承認された「国民経済と社会発展第14次5カ年計画と2035年長期目標綱要」において、公共と国家の安全を前提として多面的にデジタル化を推進する方針が強調されたことで、中国のデジタル経済への傾注が決定的となりました。同計画ではまた、デジタル経済の重点産業として、以下の7つが明確化されました。
 
中国信息通信研究院がまとめた「中国デジタル経済発展白書2020」によると、中国の各産業におけるデジタル化の推進状況は下表の通りで、2020年には第3次産業が40.7%と最大を占めました。コロナ禍での外出禁止・自粛の影響でサービス業のビジネスモデルが高度化され、クラウドサービスが一気に普及したことが背景にあります。一方、工業(鉱業、製造業、水道・電力・蒸気・熱供給・都市ガスを含む)と建設業を含む第2次産業のデジタル化も、GDPに占める割合こそ縮小傾向にあるものの、経済規模では右肩上がりとなっており、潜在性は高いと考えられます。  
この視点に立って、次に製造業企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)活動の実際を見てみましょう。中国の製造業企業のDX活動を利用シーン別に分類すると「業務自動化」「最適化」「技術基盤」の3つに大別できます。この中で、日本と比較して中国が特に強いのは、業務自動化の一環である品質検査分野での、画像認識技術を利用したDXの取り組みです。
専門家がSPEEDAに寄せたコメントでは、「中国で映像データの取得、解析を行っているHik-vision社の製造物は、温度管理だけではなく、作業者の動きや装置の運転状況も画像として解析され、製造現場での改善、効率化に寄与している。導入企業の例示は出来ないが、中国国内で先進的に取り組まれている」(大手映像関連企業 経営企画担当)、「検査を自動化するトータルソリューションを提供する企業としては、GOVION(高視科技)が有名で先進していると認識。goEyesという画像処理によって製品の検査を行うシステムを提供している」(大手自動車部品メーカー 製品開発担当)など、注目すべき中国企業の名前が挙げられています。
最後に、製造業のDX活動として一つだけ具体例に触れてみます。台湾の電子機器受託製造(EMS)大手で、最近では電気自動車(EV)事業にも力を入れている鴻海精密工業は2019年1月、世界経済フォーラム(WEF)がデジタル化とオートメーション化に優れた工場を認定する「ライトハウス」のリストに、同社深圳工場が加わったと発表しました。同社では2021年3月に成都工場もライトハウスに認定されており、デジタル経済の先駆的企業となっています。
鴻海はライトハウス認定工場の全体フレームワークを「オーダーのライフサイクル」と「製品のライフサイクル」という二つの軸で捉えており、それぞれソリューションを提供しています。同社はまた、DXのノウハウを社内に展開しつつ、外部に向けてライトハウス構築のコンサルティング、トータルソリューション、人材育成などのサービスを提供しています。特に人材育成の面では、DXマネジメントプロ、DXテクノロジープロの育成を目指して、「FIIライトハウスアカデミー」を開いており、中国製造業全体のDX推進にも貢献しています。
注1・注2: 「中国における第四次産業革命の動向について」(平成30年8月、経済産業省)を参照
SPEEDA China アナリストチーム(執筆・楊潔) 監修・米岡哲志 sh-analyst@uzabase.com

enhanced_encryption 本レポートは中国版SPEEDAトップページに載せられている「「デジタル中国」戦略のもとでの中国製造業DX現状」のレポートをまとめたものとなっています。

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