はじめに
中国では今年、まず5月に広東省の一部地域で工場向けの計画停電が行われ、その後9月下旬から、石炭不足による火力発電需給のひっ迫が世界の注目を集めました。小稿では、中国エネルギー市場の現状と、長期および短期的な電力需給について、統計を使って俯瞰してみます。また直近の中国政府による対応策も踏まえつつ、電力不足が今後も続くのかを分析してみたいと思います。
中国では改革開放以降の急速な経済成長に伴って、エネルギー需要も右肩上がりが続いてきました。その際の主要なエネルギー源になったのが石炭で、2010年までは一次エネルギー全体の7割以上を占めていました。2020年には、この割合は57%まで縮小しましたが、依然として石炭がエネルギーの主役であることは変わりません。
中国の一次エネルギーに占める石炭比率
英BPの統計によると、中国は2020年に石炭消費量が世界シェア54%、石炭生産量が同51%、石炭輸入量が同21%と、いずれも世界一となりました。中国の電源別発電量を見ると、火力発電(石炭、ガス、石油による)は総発電量の67%を占めます。そのうち95%は石炭火力発電が占めており、同国の発電の6割超が石炭に依存していることが分かります。
このような全体像の中で、直近の電力不足の状況を見てみましょう。世界に先駆けてコロナ禍を脱した中国では、今年に入り工業生産が拡大し、これと歩調を合わせて1~8月の電力消費量が前年同期比13%増となりました。こうした中、国家発展改革委員会は8月、2015年10月に提出された「双控(エネルギー消費の総量と低効率の削減)」の省区別達成度を確定。同月17日の記者会見で、目標未達の9省・区に対して「一級警告」を発令しました。
「一級警告」に該当する省・区では、「両高」と呼ばれる「高エネルギー消費」「高汚染」のプロジェクトの審査が一時中止となることが決まりました。この「両高」規制に該当する業界として電力(石炭火力発電)は筆頭に挙げられます。中国の電力情報サイト「北極星電力網」によると、火力発電機の省・区別の容量は2020年12月時点で、1位が山東省(シェア8.9%)、2位が江蘇省(同8.1%)、3位が広東省(同7.7%)、7位が(同5.1%)が新疆ウイグル自治区でした。
江蘇省、広東省は「双控」で「一級警告」、新疆ウイグル自治区は「二級警告」にそれぞれ該当し、石炭火力発電を抑制しなければならない省・区です。これら3省区の石炭火力発電容量は中国全体の21%を占める、稼働縮小が電力供給に与える影響は大きかったとみられます。
2021年上半期 地域別エネルギー消費「双控」目標達成度
出所:国家発展委員会通知公告
注1:チベット自治区は一次的なデータ不足により警告レベルのリストから除外。
注2:赤は「一級警告(状況が非常に厳しい)」、青は「二級警告(状況が比較的厳しい)」、灰色は「三級警告(進捗がおおむね順調)」
こうしたジレンマの中で、9月後半には米アップルや米テスラへの部品納入業者が、停電により江蘇省内の工場を一時停止したことなどが国内外のメディアで報じられ、サプライチェーンの混乱に対する危機感が高まりました。
しかしその後の中国政府の対応は素早く、石炭の増産に向けて、さまざまな措置を講じています。これをまとめると、大きく5つの動きがあります。
- 1, 鉱業大手に対し、石炭生産を年間割当量以上に引き上げるよう要請
- 2, エネルギー大手に対し、冬季の供給体制確保を要請
- 3, 電力大手に対し、電力価格上昇を最大20%まで容認
- 4, 石炭大手に対し、石炭価格を適切に抑制するよう要請
- 5, 地方政府に対し、市民向けの電力供給確保を要請
こうした動きと、これまでに触れた中国エネルギー市場の全体像を考慮すると、これから冬の需要期に入るものの、短期的な電力不足は解消されていく可能性が予想されます。まずは石炭を増産し、電力会社を圧迫する石炭調達価格と電力販売価格を指導管理することで、石炭と電力の供給を安定化。中国の石炭生産量は月約3.3億トンであるため、1割の増産で月約3000万トン超の供給増が実現できます。需要の季節性を無視すれば、約3カ月で在庫水準を現状から倍増できる計算です。
ただし、そもそも今回の電力・石炭不足が発生した原因の構造的な側面は見落とせません。供給面では、昨年9月に国連で掲げた「2060年までのカーボンニュートラル実現」という長期目標に向け、火力発電の抑制を厳格化した事実があります。一方、需要面では、アフターコロナの経済回復を受けて、工業生産が短期的に急回復したという要因があります。
中国は今後、再生可能エネルギーや原子力発電の拡大と経済成長のバランスを図り、エネルギー集約型の産業構成をいかに高度化していくかという長期戦略に立ち、短期のエネルギー需給の変化に柔軟に対応するという難しい課題に向き合っていかなくてはなりません。
Speedaアナリストチーム(執筆・加藤淳・米岡哲志)
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