FDIからみる日系企業の対中投資動向
2021年12月08日
世界の新型コロナウイルス新規感染者数が増え続け、累計で1億人を突破する中、感染拡大をいち早く脱して経済回復が進む中国への投資マネーが止まりません。国連貿易開発会議(UNCTAD)の2021年1月の発表によると、2020年の海外直接投資(FDI)の総額が前年比42%減の8,590億ドルに落ち込む中、中国向けFDIは前年比4%増の1,630億ドルを記録。米国向けの1340億ドルを抜き、投資受入国として初めて世界トップに立ちました。中国は国内総生産(GDP)でも2010年に日本を抜き世界2位となり、今では2020年代に米国を抜くとの見方が有力です。中国が名実ともに「世界経済の中心」になる日が近付いています。
「政冷経熱」の米中関係
米国はトランプ政権期の2018年10月に中国との対決姿勢を鮮明化し、いわゆる米中貿易摩擦の時代が幕を開けました。2021年1月に発足したバイデン政権も、3月に米アラスカ州で開かれた初の米中外相会談で冒頭から新疆ウイグル自治区や香港、台湾での中国の活動について深い懸念を表明。前政権と変わらぬ、強硬な姿勢を打ち出しました。一方、こうした国家レベルでの激しい応酬とは裏腹に、米国企業の中国向け投資は勢いを増しています。
在華南米国商工会議所が2021年2月に発表した「2021年中国ビジネス環境白書」および「2021年華南地域経済情勢特別報告」によると、華南地域の米国企業208社にアンケートした結果、全体の94%が中国市場に楽観的な姿勢を示したのに対し、中国からの完全撤退を表明した企業は皆無となりました。また製造拠点としての中国の吸引力が徐々に低下しているにもかかわらず、ビジネスの投資先として中国が世界で最優先の市場であるとした企業が過半数に上ったことが分かりました。2021年に中国での再投資を計画している米国企業は73%に達し、中国企業の70%、欧州企業の57%をも上回る強気の結果となりました。
冒頭で引用したFDIには一般的に、外国企業が投資先国に現地法人を設立し、工場やオフィス、販売拠点などを設立する「ビジネス投資」や、電力・交通・通信セクターなどの「社会インフラ投資」に加え、海外M&Aによって投資先国の企業の合併・買収が含まれます。米企業による最近のクロスボーダーM&Aを列挙すると、
- 金融大手ゴールドマンサックスによる中国合弁会社、高盛高華証券の完全買収(2020年12月)
- 電気自動車大手テスラの工場新設・増設(2019年1月-現在)
- 清涼飲料大手ペプシコによるオンライン菓子メーカー、杭州郝姆斯食品の買収(2020年6月)
――などがあります。
先細る日本の対中投資
ところがこうした中、世界から中国への直接投資が増加するのに逆行する形で、日系企業による対中投資は大幅に減少しています。中国商務部の統計を見ると、上位9カ国・地域の中で台湾と並び過去8年間(2012-19年)に投資額が減少した珍しいケースが日本です。2019年は金額こそ米国の26.9億米ドルを上回る37.2億米ドルとなりましたが、2012年の73.5億米ドルからはほぼ半分に縮小しており、上位9カ国・地域で最大の下げ幅を記録しました。
日本経済の衰退で、対外直接投資が減っているのではと思う向きもあるかもしれません。ところが日本の対外直接投資額は2018年、19年とも米国を上回り、世界最大の対外直接投資国となっているのです。これは主に、東南アジア諸国連合(ASEAN)や欧州への投資が増加しているためで、2019年の投資先上位3カ国はアイルランド、米国、スイスの順となりました。
日本の対外直接投資が年々増加する中で、中国が占める割合は2004年に過去最大の17.8%を記録して以降、過去最少となった2019年の1.6%まで、右肩下がりとなっています。中でも2012年9月の尖閣諸島国有化によって、日中関係が「戦後最悪」とまで呼ばれる事態に陥ってからは、2012年の対中投資額を一度も上回ることなく現在に至っています。
もう一つのねじれ現象
日本の対中投資には、世界の流れと逆行するもう一つの現象があります。海外から中国への直接投資は過去20年の間に製造業からサービス業へ大きくシフトしました。2012年以前は5割以上を占めていた製造業はその後、2015年に3割を下抜けし、2019年には25.1%まで縮小しました。同年のサービス業の割合が69.6%に達したのとはまさに好対照です。
ところが、業種別の対中投資が分かる日本側(財務省、日本銀行)の統計データをひも解くと、日本の対中投資に占める製造業の割合は2012年から2019年まで6-7割の高水準を維持しています。貿易品目の分類で上位を占めるのが輸送機械器具(34%)、一般機械器具(19%)、電気機械器具(16%)など。これは中国で確固たる存在感を放つ日本車に関連した投資が大きいと考えられます。
日本企業には日本企業の強みと戦略があります。世界の流れに追随するだけがビジネスではもちろんありません。しかしながら、潮目の変化に気付かずに、自分たちだけが沖に流されているとしたら大変なリスクです。時にはこうした客観的な経済情報や統計データを基に、中国でのビジネス展開を俯瞰的に見直してみる姿勢も大切ではないでしょうか。
Speeda China アナリストチーム(執筆・王思文)
監修・米岡哲志
sh-analyst@uzabase.com
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本レポートは中国版Speedaトップページに載せられている「FDI からみる日系企業の対中投資動向」のレポートをまとめたものとなっています。
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