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5カ年計画のキーワードから読み解く中国重点産業

2022年01月04日

はじめに

中国は2002年、中国共産党創立から100年目に当たる2021年までに「小康社会」を完成し、中華人民共和国(新中国)成立から100年目に当たる2049年までに「社会主義現代国家」を実現するという、いわゆる「100年目標」を初めて打ち出しました。2021年はちょうど2つの目標の折り返し地点に当たります。こうした背景から、同年3月に採択された第14次5カ年計画(2021-25年)および2035年までの長期目標では、今後100年を見据えた経済産業発展の要として「科学技術(科技)強国」戦略が掲げられました。
5カ年計画の内容を記した政策文書は中国語で全文が6万字超に達します。総論をはじめとして、概念的・抽象的な記述も多くありますが、中国の今後の重点産業に関する内容も具体的に指摘されています。同計画ではまず、中国の現代化建設に向けて、「科技強国、製造強国、品質強国、交通強国、貿易強国、ネットワーク強国」といった強国戦略や、「デジタル中国、健康中国」などのテーマが列挙されています。この中で特に重視されるのが、創新(イノベーション)を主軸とする「科技強国(科技創新)」で、これこそが第14次五カ年計画を読み解く上で最も重要なキーワードになります。

今回の5カ年計画では、今後のGDP成長率について具体的な数値目標が定められなかったことが注目を集めました。国内総生産(GDP)成長率の目標値欄には、「合理的な区間に維持し、各年の状況に応じて設定する」とだけ記されています。これはつまり、中国の経済発展の重心が「量」から「質」へとシフトすることを表しているとされます。  

5カ年計画の重点産業

  新5カ年計画では「科技強国」に基づき、7つの先端研究分野におよぶ50以上の詳細課題が設定されています。また、製造業のコア技術の競争力向上に関する施策や、8つの先端製造分野におよぶ70以上の課題も提起されました。一方、「イノベーション」と並ぶ新5カ年計画のキーワードである「デジタル」に関して同計画では、経済、社会、政務、生産、生活などの全方位的なデジタル化を目指す「デジタル中国」戦略が示されています。具体的には「クラウドコンピューティング」「ビッグデータ」「IoT」「産業用インターネット」「ブロックチェーン」「人口知能(AI)」「仮想現実(VR)と拡張現実(AR)」の7産業がデジタル経済の重点産業に挙げられています。   さらにその具体的な利用シーンについても、「交通」「エネルギー」「製造」「農業水利」「教育」「医療」「カルチャー/トラベル」「コミュニティー」「住居」「政務」といった広範な分野が視野に含まれています。  

「双循環」が内需に与えるインパクト

  計画ではまた、内需拡大に基づく「国内大循環」と、輸出や投資誘致などによる「国際大循環」を同時に促進する「双循環」戦略が提唱されています。これによって第一に期待されるのが、小売業界に与える販売拡大効果です。   中国商務部は既に昨年から、コロナ禍で落ち込んだ消費を活性化させるため、◇生活圏密着型コンビニエンスストアの普及◇歩行者天国の整備◇飲食店への支援◇家政婦サービスの振興――などといった現場レベルの施策を積極的に推進してきました。こうした取り組みもあってか、中国の社会消費品小売総額(小売売上高)は2020年通年で前年比3.9%減に落ち込んだものの、21年1-3月期には前年同期比33.9%増へと急回復を果たしました。  

 

5カ年計画の都市・地域計画

  計画ではさらに、都市化と地域発展に関する戦略措置と詳細項目に多くのページが割かれています。中国では、農村部から都市部への人口流入が多く、沿海部の大規模都市などでは交通渋滞、住宅不足、環境汚染などの都市問題が深刻化しました。事態を重く見た中国政府は2010年末、初となる国土空間開発計画を発表しました。そしてこの中で、ユーラシア横断鉄道沿い、長江沿いを2本の横軸、ハルビン~北京から広州、フフホト~西安~昆明、沿海部を3本の縦軸とみなす「両横三縦」戦略を定めました。   第14次5カ年計画では都市化について、第1級とみなされる(1)北京・天津・河北、(2)長江デルタ、(3)珠江デルタ、(4)成都・重慶、(5)長江中流域の5都市群をはじめ、全国19都市群の効率改善、コスト抑制、産業分担、インフラ共有を同時に進め、対象都市の効率とバランスを調整し、「両横三縦」の全面的な実現を目指すとしています。

中国国家統計局が2021年1月に発表したデータによると、中国の総人口に占める都市人口の割合(都市化率)は60.6%にとどまりました。世界の主要国の平均都市化率(70-80%)に比べて依然開きがあり、今後のさらなる都市化が見込まれています。  

5カ年計画とビジネスチャンス

  以上見てきたように、5カ年計画で言及される産業や技術、テーマは極めて多岐に及びます。SPEEDA Chinaでは、こうした中国の重点産業のうち、中国で事業展開する日系企業にビジネスチャンスがある分野として、特に「新エネルギー車(NEV)」「クリーンエネルギー」「バイオメディカル」「新小売」といった分野に着目しています。本連載では今後、これらの具体的な産業・業界・ビジネステーマについて、順次紹介してゆきたいと考えています。

  SPEEDA China 首席アナリスト 米岡哲志 sh-analyst@uzabase.com  

enhanced_encryption 本レポートは中国版SPEEDAトップページに載せられている「5カ年計画のキーワードから読み解く中国重点産業【前編】」のレポートをまとめたものとなっています。

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